ピーター・ディア『知識と経験の革命―科学革命の現場で何が起こったか』

訳者あとがきによれば、著者ピーター・ディアは世界的な科学史研究誌『Isis』に掲載された論文を精選して編集することを委託されたりと厚い信頼を受けている科学史研究者で、現在はコーネル大学で科学史・科学技術論を講じている。2001年刊行の本書は翌2002…

セドリック・ブックス『言語から認知を探る―ホモ・コンビナンスの心』

セドリック・ブックス。ベルギー出身で、ハーバード大学の助教授、准教授を経て、現在はスペインのカタラーナ高等研究所・バルセローナ自治大学の研究教授。 専門は生物言語学、理論言語学。 本書はハーバード大学での学部生用の講義を基にしているとのこと…

ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン― 「言語本能」を超える文化と世界観』

ピダハンというのはアマゾンの奥地に暮らす少数民族。元々言語研究のためというよりキリスト教者として聖書をピダハン語に翻訳してピダハンの人々に布教するためにピダハンの村に赴いた著者だったが、やがて現存するどの言語とも似ていないピダハン語と彼ら…

ゼノン・W・ピリシン『ものと場所―心は世界とどう結びついているか』

著者ゼノン・W・ピリシンは1937年生まれ、ラトガース大学に在職し、同大学認知科学センターの所長も勤める認知科学の重鎮の一人。 チザムやシュリックといった古典的認識論の哲学者は、ある内容を持った信念が別の信念を正当化して…という一連の流れをどうや…

スティーヴン・クレスゲ編『ハイエク、ハイエクを語る』

これは経済学がどうこうというより20世紀初期ウィーンの状況とかに興味があって手に取った。 本人の手による自伝的ノートをベースに、トピックに関連するインタヴューが合間合間に挿入されるというちょっとユニークな構成。狭義の哲学者ならぬハイエクの視点…

『国際政治哲学』

これは良書ですねぃ。扱ってる範囲は広いし文献案内も充実してる。 17ページにわたる力のこもった「はじめに」を読むだけでも勉強になる。 その「はじめに」で「各章は内容的に独立しており、関心のある章から拾い読みしていくという読み方も可能」とあるの…

ギルバート・ライルによる『存在と時間』書評

自分がコレ読んだのはけっこう前ですけど、大陸系と分析系といいますか、日常言語学派の哲学者が現象学的伝統に言及しているのは割とレアかなと思い、紹介してみます。ライル先生、このとき28歳ですけど、現象学のほうの事情もかなりお詳しいです。つーわけ…

アレックス・ローゼンバーグ『科学哲学 なぜ科学が哲学の問題になるのか』

著者のローゼンバーグは1946年生まれ、これまでにラカトシュ賞*1とファイ・ベータ・カッパ協会の教授賞*2をゲットしており、社会学の哲学から生物学の哲学まで関心は幅広い。本書は、著者ローゼンバーグによれば「ヘンペルの『自然科学の哲学』を継承するに…

<分析>哲学者・戸田山和久著作ダイジェスト

さしあたり更新おやすみ中です。 戸田山和久さんはいわゆる分析系――戸田山さんや飯田隆さんにいわせると「分析系」とひとくくりにすることが今や期限切れということになるのでしょうが――の哲学者で、単著ではかなり一般向けの本を書いていて、マニアックなト…

クリストファー・チャーニアク『最小合理性』

あと1回かそこらでちょっとブログ休みます。ぼくもねえ、トンボつかまえたりドッヂボールしたりして遊びたいわけですよ。・ ・ ・「人間は不合理」とかフツーに暮らしてたら当たり前だろJKといいたくなるハナシではあるが、この合理性というコトバはちょっ…

岡本裕一朗『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』

ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち作者: 岡本裕一朗出版社/メーカー: ナカニシヤ出版発売日: 2009/03メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 42回この商品を含むブログ (4件) を見るヘーゲルの著作の誤読あるいは独自解釈に基づくヘーゲル…

矢向正人『音楽と美の言語ゲーム』

「最近よく更新してますね」といわれますが(いわれてませんが)、以前読書ノートとったまま放置プレイしてたのを今バーゲンセールしているだけという説もあります。その辺の議論については明るくないのでぼくにはよくわかりませんが。・ ・ ・「言語ゲーム…

三浦雅弘『ことばの迷宮』

特に第一部の3章チョムスキー・クワイン論争と5章、6章の隠喩論がオモロかったんでその話をすることにしよう。・チョムスキー・クワイン論争チョムスキー・クワイン論争というのは60〜80年代、足かき20年にわたっておこなわれた論争のことで、部分的には一…

ロバート・ノージック『考えることを考える』

哲学者ロバート・ノージックが三十代にしてデビュー作『アナーキー・国家・ユートピア』を著し、注目を集めた7年後、政治哲学から一転して哲学本来の課題に取り組んで書き上げたのが本書だ。ロバート・ノージックは1938年にロシア系ユダヤ人移民の子として…

アンディ・クラーク小特集

先月、アンディ・クラークがひそか(でもないか)に来日講演をしていたのだった。だからというわけでもないけどプチ特集。認知の哲学的吟味、基礎付けをおこなう心の哲学の一分野「認知哲学(認知科学の哲学)」というジャンルがあって、アンディ・クラーク…

ジョン・マクダウェル小特集

ジョン・マクダウェルは日本では知名度はあまり高くないけど英語圏ではデイヴィドソン、ダメットに並ぶビッグネームの哲学者。主な関心は言語哲学、心の哲学、形而上学、認識論、倫理学…と、ここまでならそう珍しくないが、特筆すべきは師匠のウィルフリド・…

ウィトゲンシュタイン『美学、心理学および宗教的信念についての講義と会話』

この文章は、『論考』を自己批判した後、言語ゲームといって謎めいたテクストを書き始めた【後期】ウィトゲンシュタインが世界の意味や美や宗教についてかなりまとまった形で述べている唯一の資料*1。しかし、最近日本でも流行しつつある「分析美学」のよう…

アブダクションと帰納

ちょっと前に池田信夫氏がこんなついーとをしていて、まあこの二人は経済論壇的に真逆の立場で、disったこと自体はよくあることなのでどうでもいいのだが、アブダクションと帰納の違いについて気になっていたので、ちゃちゃっと調べてみました。この際経済論…

戸田山和久『認知科学のなかで哲学に何ができるかを考え直してみた』

ごめん、オラ、前のエントリで嘘ついてた。 『交響するコスモス』の論文、戸田山サンの書いたものの最新じゃなかった。『認知科学』という雑誌の2010年12月号で短い文章書いてた。おそらくこれが現時点で最新*1。・戸田山和久 認知科学のなかで哲学に何がで…

『交響するコスモス 上巻』

以下は、戸田山(和久)さんが書いたもので本になったものでは、ほぼ最新のもの。戸田山さんのとこしか読んでないが面白かったので紹介したい。戸田山和久による序文まずはおさらい 網状モデルとはラウダンが編み出したモデル。クーンの「パラダイム」の改良…

日本カント協会編『日本カント研究8 カントと心の哲学』

戸田山和久「カントを自然化する」認知科学の基本的なテーゼのいくつかはカントにまで遡る、というのは古くから指摘されていて、デネットは、およそ何者かが経験することができるのはいかにしてか、というカントの問いを、システムがどのようにしたらXを成し…

映画『kocorono』観てきた

渋谷のシアターNでbloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画を観てきた。 タイトルは『kocorono』でこれは彼らの1996年の傑作アルバムのタイトルでもある。メンバーの活動の映像が中心で、所々に吉野さんとかSEIKIさんといった界隈の人たちがコメントし…

中山康雄『現代唯名論の構築』

人文書院のブックガイドシリーズの『科学哲学』を書いていた中山康雄氏による、自身の考えをかなり前面に打ち出した勝負の一冊。『科学哲学』もよかったが、本書もいい。ところでこの本、タイトルはいまいちな気がする。「唯名論」という字を見てもなんとな…

ルース・ギャレット・ミリカン『意味と目的の世界』

分析哲学者とか認知心理学者が対象にしている、表象とか志向性とか心身問題などを扱う分野に興味があるけどこの2010年代に、身体になにやら魂が宿っているという二元論を主張し続ける覚悟もなく(今そんな主張してると電波とか呼ばれますマジで)、しかし「…

アール・コニー+セオドア・サイダー『形而上学レッスン』

形而上学レッスン―存在・時間・自由をめぐる哲学ガイド (現代哲学への招待Basics)作者: アールコニー,セオドアサイダー,Earl Conee,Theodore Sider,小山虎出版社/メーカー: 春秋社発売日: 2009/12メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 141回この商品を含むブ…

サイモン・エヴニン『デイヴィドソン 行為と言語の哲学』

最近デイヴィドソンが気になってて、前の記事で紹介した森本浩一氏や戸田山和久氏なども推薦している本格的なデイヴィドソンの解説書に手を出してみた。森本氏の入門書は言語哲学を中心に扱っていたけど、デイヴィドソンは行為や心についての哲学、形而上学…

「言語」なんて存在するのだろうか

あなたが友人と遊んでいるときに、飲み物やおつまみかなんか足りなくなって、買い物に行こうと席を立ったときにある友人が「おれ(わたし)も一緒に行く」と言ったとしたら。まあまず、「同行の意思の表明」だと受け止めるよね。常識的に考えて。その一階上…

丹治信春『クワイン ホーリズムの哲学』

「入門書だからといって水準を落とすことなく、……名著です」戸田山和久*1 「アメリカ哲学はこんなに面白いのだ、カッコいいのだ!と大声で布教したい私としては、格好の一冊」三浦俊彦*2 分析哲学をひとつの円で表せばクワインはウィトゲンシュタインなんか…

イアン・ハッキング『言語はなぜ哲学の問題になるのか』

もはや古典の感すら纏いつつある一冊。 オリジナルは1975年に書かれたものですが、重要ということで。まあ、そのことに留意しつつ読む必要があるけど。しかし19世紀の本とかだと古い感じがしないのに、70年代、80年代の本の、この古臭さってなんでしょうね笑…

あけましておめでとうございます

というわけでこんな辺境の地にわざわざ来てくれるカタガタにとって今年がいい年でありますように。おれ、今借りてor買って積んでる小難しい本消化してブログに書くの終わったら しばらくブログ更新頻度下げて、まったりと小説読んだり映画みるんだ…。