高根正昭『創造の方法学』

創造の方法学 (講談社現代新書)

創造の方法学 (講談社現代新書)

ちょっと前に読んだ大塚久雄の『社会科学の方法』はマルクスヴェーバーの採った方法から社会科学の方法を解説した名著だったけど、こちらは特定の学者・方法に依拠せず、様々な方法を取り上げ、社会科学というものを包括的に解説している。
近代に数量的な方法(サーヴェイリサーチ)が発達してくると、古典的な質的・歴史的な方法(例えばヴェーバー的な方法である比較例証法)を頼りないとみなす学者も現れ、数量的な方法を採る学者と質的・歴史的な方法を採る学者との間には緊張が生まれた、その様子を克明に筆者は描く。筆者はカリフォルニア大学で先端の社会学を学んでいた当時のエピソードの中で、大学で起きていたその二つの方法の相克の様子を語っているが、これがすごく面白い。現代でもネットで見られる文系と理系の言い争いとほとんど一緒(笑)。数十年前のアカデミズムでの出来事だけど、僕にはとてもリアルに感じられた。筆者はというと、数量的な方法にハマっていた時期もあり今後も重要になってくるとしつつ、本書が書かれた時点では質的・歴史的な方法にも理解を示しているようだ。数量的方法を採る人にはどうも頑なに質的方法を否定する人がいるので、筆者の頭の柔軟さにはなんだか親近感を覚えた。さて、その根拠として筆者は

厳密性の低い方法が、今日なお多く使用される理由は厳密性の高い方法は一般にその適用範囲が限られているためである

と述べている。例えばアルコール中毒者や非行少年集団など反社会的な集団の仕組みなどを観察する場合、堅苦しい質問表では捉えきれず、そんな場合はその集団に入り込む参加観察法が重宝するらしい。宮台真司さんの援助交際女子高生の調査みたいなもんかな?こうして様々なレベルの適用範囲と厳密性を持った方法を紹介していく。それらをここで一つ一つ紹介はしないけど、本書にそれらの方法を一覧できる表が載っているのでそれを貼ってみることにする。

自分なりにまとめると、可能であれば実験的方法や数量的方法が望ましいが、歴史的事象や社会全体など、対象が流動的だったり広く複雑な場合、歴史的資料を用いた比較例証法のような質的方法も積極的に利用すればいい、という感じでしょうか。

追記
現在では本書が書かれてから三十年経ってコンピュータも発達し、一昔前なら大変だった統計もフリーソフトなどでかなり簡単で身近になったことも考慮する必要がある。