下條信輔『サブリミナル・インパクト』

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

人間の記憶や知覚には顕在領域の他に潜在領域があり、潜在領域は利用される弱点にも創造の源にもなりうる、というのが本書のアウトラインである。まず広告やメディア、娯楽は潜在領域に訴える方向に向かっていると筆者は主張する。潜在レベルに訴える事例として筆者は某ファストフード店では客を長居させず回転をよくするためにイスが硬い素材で作られている、という事例を紹介する。客に直接言葉で注意するというやり方が顕在領域に訴える方法なら、座り心地の悪い硬いイスは潜在領域に訴える方法で、客は「無意識に、なんとなく」立ち上がって店から出て行ってしまうというわけだ。潜在領域はこのように「無意識に、なんとなく」コントロールされてしまう弱点でもあるが、負の面ばかりではなく創造性の源でもあるという。人は何か閃いた時「何かが舞い降りてきた」などと表現するが、これは潜在領域にストックされた知が顕在領域に読み出されたということらしい。潜在領域への働きかけに抵抗するのは難しいと筆者は語るが、本書の潜在と顕在というキー概念を知っているだけで、かなりメディアや広告に対して自由になれるのではないだろうか。とても知的刺激に満ちた一冊であった。

まとめ(半分ネタです)

・あなたの中には「潜在君」というもう一人のあなたがいます。
・あなたは潜在君に引っ張られて生きています。
・潜在君は感覚的な刺激や扇情的な訴えにとても騙されやすいです。
・潜在君はどん欲です。
・しかし潜在君はすごい知識や才能を持っています。
・にもかかわらず潜在君はそれを出し惜しみします。
・顕在的な意識で潜在君を押さえ込んだり解放したりしながら上手に付き合いましょう。
・悪いことしても潜在君のせいにするのはやめましょう。