福岡伸一×斎藤環 トークイベント@紀伊國屋サザンセミナー

科学者というのは一般に承認されうる知の体系を語る人々なのであるが、時として何を間違えてか詩人・文学系の素質を持った人が科学者になってしまうことがある。ちょうど何年か前に多摩川にアザラシが迷い込んだように。by俺

昨日、紀伊國屋サザンセミナーに福岡伸一さんと斎藤環さんのトークイベント『科学と非科学のあいだ〜ライアル・ワトソンとは何者だったのか』を観に行ってきた。
 「科学と非科学のあいだ ライアル・ワトソンとは何者だったのか」
このイベントは福岡さんが翻訳したライアル・ワトソン著『エレファントム』の刊行イベントで、福岡さんはいいとしてなぜお相手が斎藤環さんなのかというと実は斎藤環さんが前に書評でワトソンの非科学性をけっこう厳しく指摘していたらしくて、よせばいいのに、じゃあ斎藤環さんを呼んで福岡さんとライアル・ワトソンや科学について語ってもらおう、ということになったらしい。

さてライアル・ワトソンなる人物については実は僕も詳しくは知らなかったのだけど、ネットでカチャカチャ調べてみると、どうも「科学者にしては飛躍のあることを語ってる人物」という定評があるようで、まあ、日本でいうモギケン、福岡さんみたいなタイプだな、ととりあえず解釈してイベントに挑んだ。

実際に観ることで文章だけでは伝わらない人柄の細かい所もわかったのが収穫だった。ライブは情報量が多いby渋谷陽一といったところか。福岡さんといえば文章力に定評があるけど、この日は齋藤さんのつっこみにたじたじ・・・という風に見えなくもなかった。ひょっとして福岡さんべシャリは苦手?一方斎藤環さんは、過剰に攻撃的にならずに、しかし言うべきことは言う、という感じであった。立場の違う二人のトークイベントではあったが会場はそれほど緊張感もなく、時折笑いも生じたりして、まったりと聴けた。とりあえずわかったことは

斎藤環さんの書評のせいで福岡さんは賞金100万円獲得のチャンスを失った(しかし別に齋藤さんを恨んではいない模様)。
・福岡さんもワトソンは科学者としてはアウトだと思っている(衝撃の事実)。
・福岡さんにとって科学とは自然現象の中にある構造を探し当てること。例えばホタルはなぜ集団で同時に発光するのかとかつきとめる事。
・福岡さんはいい人でした。
・ワトソンは科学者としてはアウトっぽいが一人の人間の精神史をみれば興味深い。

さて僕はゴリゴリの実証主義者ではないけど、一般に承認されない知を科学と呼べるほど許容範囲は広くない。一分の隙もない理論を構築しようと切磋琢磨している科学者というのもいて、そういう人達の努力は相応に評価されるべきだと思うので、「面白くていい人だから、こまけぇこたぁいいんだよ(AA略)」とはちょっと言えない。僕よりもっと厳密な人なら「福岡やワトソンはインチキだから価値なし!」となるのかもしれない。ただちょっと擁護すると、この手の飛躍系の人たちは「目の付け所」みたいなのはいいと思うんだよね。自然現象をじっと見据えて、不思議な現象とか何らかの法則みたいなのを見つける嗅覚のようなもの、そういうのは科学者にとって必要でしょう。ただそういう嗅覚が優れてる人に限って、仮説の厳密な検証をサボるというか(笑)。だからある種の嗅覚・洞察力と検証力の二つが両立できればいいんだけどなぁ、と思うのだけど。それほど無理な話ではないと思う。