『吉田茂と昭和史』井上寿一

吉田茂と昭和史 (講談社現代新書)

吉田茂と昭和史 (講談社現代新書)

「完全非武装と憲法改正論の両方からの攻撃に耐え、論理的にはあいまいな立場を断固として貫くことによって、経済中心主義というユニークな生き方を根づかせた」という、本書にも引用されている国際政治学者・高坂正堯の吉田評が吉田茂の本質をよく表しており、また本書の要約にもなっていると思う。
十五年戦争中、国際規範の認める範囲で満蒙の権益を守ろうとし、また列国との協調を重視し外交関係の修復を目指して東奔西走するなど、したたかで柔軟な吉田の活動を通じて立体的に昭和史を理解できる。
使われている参考文献も良質かつ豊富で、文章も明晰。最近のお手軽な新書とは一線を画す誠実な良書だと思う。