山岸俊男・吉開範章『ネット評判社会』

ネット評判社会 (NTT出版ライブラリーレゾナント057)

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アマゾンレビューにも投稿したけど反映されない・・。

前半は山岸氏のこれまでの著書から「信頼」と「安心」の議論の要約が展開される。
かつて村八分が強制力を持っていたのは当時は村八分にあえば生活が成り立たなくなるからで、公的な法制度が整っていない時代は安心のためにこうした集団主義的秩序を形成する必要があった。しかし、近代的な法制度が整ってしまえばこうした集団主義的秩序はなし崩し的に消失せざるをえない。自分の所属する集団を超えた相手から資源を獲得する個人主義的秩序のほうが合理的ということになる。しかしそのためには未知の相手を見抜くための社会的知性を得ることが必要だ。それは長く集団主義的秩序の中で暮らしてきた人たちには難しいかもしれない。

そこで筆者がヒントにするのがネットオークションの評価システムに代表される「適切な評価をつける評価者が高い評価を受けるメタ評価的なシステム」だ。ヤフーオークションを利用したことがある人なら直感で理解できそうだが、あの場では取引で不正をするとマイナス評価がつくようになっており、そうすると出品者も落札者も今後の取引で「安心できない奴」ということになり損をするようになっている。良い取引をすればそれはプラスになり、評価ポイントは高ければ高いほど(まったく見知らぬ人間であるにもかかわらず)「この人は安心」とされ、結局得をすることになる。これがインセンティブとなってヤフーオークションは、比較的秩序が保たれている。今は一部で利用されているのみだが技術が進歩すればもっと広く応用できるようになり、メタ評価的なシステムが社会的知性を肩代わりしてくれる新しい安心社会がくるかもしれない、という試論が後半に展開される。

評価システムの例としてAmazonのカスタマーレビューの話も出てくるが、売れている商品ばかり評価してる人は内容にもかかわらず評価が高いということになってしまうし、ヤフーオークションでも絶妙な商品の紹介文で、粗悪品をそうでないように見せかける人もいたりするので(この場合読解できなかった落札者が悪いということになってしまうのでマイナスはつけられない)、個人的にはまだまだ社会的知性は必要だと考えるが、本書が統計学的な知を使って検証する姿勢とそこからちょっと飛躍した仮説を提示してみせる知的刺激のある一冊であることは間違いない。