サイモン・エヴニン『デイヴィドソン 行為と言語の哲学』

最近デイヴィドソンが気になってて、前の記事で紹介した森本浩一氏や戸田山和久氏なども推薦している本格的なデイヴィドソンの解説書に手を出してみた。

森本氏の入門書は言語哲学を中心に扱っていたけど、デイヴィドソンは行為や心についての哲学、形而上学などを彼独自の体系的な哲学から関連づけて論じたのであって、本書はそのデイヴィドソン哲学の包括的な解説書。著者のサイモン・エヴニンはイギリスの分析系の哲学者である。

森本氏も書いていたが、難解といわれるデイヴィドソンを本格的に論じているだけあって解説書とはいえかなり難しい。分析哲学の知識0で挑むのは無謀なのでデイヴィドソンに興味持った方はせめて森本氏から入ったほうがよさげ…って人事みたいに書いてるが実は僕自身、半分も理解できないだろうなーと思っていた。けど読む前に思ってたよりは手ごたえがありました。そしてすごーい面白かった。

エヴニンはデイヴィドソンを誠実に読み込んではいるけど、解説の際、問題があると判断したところには忌憚なく批判を加えているあたり、読んでいて清々しい。

デイヴィドソンの哲学の根幹には師匠であるクワインホーリズムが強く関わってて、それは本人も「自分はただクワインの構想を継承し、それをより精巧しているにすぎない」と認めている。

しかし本当にそうだろうか。たしかにデイヴィドソン分析哲学的な知をかなり内面化してはいるが、個人的にはクワインの正統な継承者かというと、ちょっとズレる気がしている。なんというか…クワインに比べて結構危なっかしいというか(それゆえ面白いともいえる)。実際キムやダメットなど批判者も結構いて、デネットデイヴィドソンの非法則一元論にちょっと距離を置いている。

そんなところや自身の体系的な哲学から何でも語っちゃうあたりも含めてどちらかというと大陸風味な感じがする(といったら刺されるだろうか)。

クワインは古代や大陸哲学にあまり興味を持たなかったが、デイヴィドソンは十代の頃、プラトンニーチェに興味を持っていた……というのが意外と重要な気がするのですがいかがでしょうか。


デイヴィドソン―行為と言語の哲学

デイヴィドソン―行為と言語の哲学

目次

第一章 心的なものについての非法則論
 1.1 一人称の視座と三人称の視座
 1.2 規範的原則と全体論
 1.3 心理物理法則
 1.4 心理法則

第二章 出来事・因果・因果的説明
 2.1 特殊者としての出来事
 2.2 因果
 2.3 因果的説明

第三章 行為
 3.1 行為・出来事・行為者
 3.2 行為の因果説
 3.3 理由は原因でありうるか
 3.4 因果的説明と理由による説明
 3.5 実践推理と意図

第四章 心と物
 4.1 非法則論的一元論
 4.2 心的出来事と物的出来事
 4.3 付随性

第五章 意味と真理
 5.1 意味の理論に対するふたつの接近法
 5.2 内包性と外延性
 5.3 タルスキの真理理論
 5.4 真理理論と自然言語

第六章 根元的解釈
 6.1 根元的翻訳
 6.2 解釈対翻訳
 6.3 寛容の原則
 6.4 誤り・言語・規約
 6.5 「意味という鏡を通して見られた認識論」
 6.6 寛容の必然性

第七章 全体論と意味
 7.1 T‐文は解釈になっているか
 7.2 法則としての定理
 7.3 全体論と不確定性
 7.4 原子論――指示の因果説
 7.5 ダメットと全体論

第八章 真理・知識・相対主義
 8.1 真理
 8.2 懐疑論――基礎づけ主義と斉合性
 8.3 心の消滅
 8.4 合理主義的観念論とその諸問題

第九章 実在論と観念論
 9.1 ふたつの内容理論
 9.2 因果と内容
 9.3 自分自身の心を知ること
 9.4 不合理性
結 章 デイヴィドソンのふたつの構想
付 論 フレーゲ論法