アンディ・クラーク小特集

先月、アンディ・クラークがひそか(でもないか)に来日講演をしていたのだった。だからというわけでもないけどプチ特集。

認知の哲学的吟味、基礎付けをおこなう心の哲学の一分野「認知哲学(認知科学の哲学)」というジャンルがあって、アンディ・クラークはその分野の俊英。ということで同じくこの分野で有名なデネットに紹介していただこう。

アンディ・クラークは、今日急速に発展しつつあるこの分野における、疑いもなく最も明晰で機知にあふれた哲学者の一人である。彼があげる例は適切であり、叙述は明快で生彩に富んでいる。(『認知の微視的構造』カバーのコメント)


認知哲学の分野は、統語論的構造をもち直列的にとらえる古典的計算主義(フォーダーなど)、非形式的で並列分散的なものとして表象をとらえるコネクショニズムチャーチランドなど)、認知は表象を必要としないとする力学系アプローチ(ヴァン・ゲルダーなど)、環境との相互作用説をとる環境主義(マクレランド、ローランズら)など群雄割拠なのであるが、このアンディ・クラークという人は、受けいれられるところは貪欲に取り入れ、はては現象学まで持ってきて、フォークサイコロジー(素朴心理学)という、人が4歳児になると自然に獲得する他者理解のための知識を進化論的な見地から正しく位置づけるという試みにも取りくんだりしている。

↓これまでに出た本

生得的なものや学習の順序が認知能力の獲得にどう影響するかをコネクショニズムの観点から興味深く解き明かす。

Associative Engines: Connectionism, Concepts, and Representational Change (Bradford Books)

Associative Engines: Connectionism, Concepts, and Representational Change (Bradford Books)

ロボット工学や力学系理論、発達心理学など、さまざまな分野から環境主義の新しい動きを探り出し、それらを一体的な見方のもとにまとめあげる。

Being There: Putting Brain, Body, and World Together Again (MIT Press)

Being There: Putting Brain, Body, and World Together Again (MIT Press)

現時点で一番新しいのがこれ。

Supersizing the Mind: Embodiment, Action, and Cognitive Extension (Philosophy of the Mind)

Supersizing the Mind: Embodiment, Action, and Cognitive Extension (Philosophy of the Mind)

今のところ日本語で読めるのはこちら↓。もっと出ればいいのにねえ。

古典主義とコネクショニズムを比較して、コネクショニズムの新しさと魅力を生き生きと描き出す。

認知の微視的構造―哲学、認知科学、PDPモデル

認知の微視的構造―哲学、認知科学、PDPモデル

反表象主義に「待った」をかける『表象なしでやれるのか?』が収められてる。

ハイデガーと認知科学

ハイデガーと認知科学

『視覚経験と運動行為』収録。運動における背側と腹側のプロセスに基づく視覚経験についての話。そこで提唱されるEBS(Experience-Based Selection)はジョン・マクダウェルの知覚経験の話とも調和しうる、というくだりはなかなかアガる。

現代思想2005年2月号)

なお認知哲学を鳥瞰したいならこのふたつがオヌヌメ

シリーズ心の哲学〈2〉ロボット篇

シリーズ心の哲学〈2〉ロボット篇

心の科学と哲学―コネクショニズムの可能性

心の科学と哲学―コネクショニズムの可能性


今日のBGM
PIXIES "Where Is My Mind"

Doolittle

Doolittle

クラークの趣味に合わせて。映画『ファイトクラブ』のエンディングに使われてた曲ですね。