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スコット・O・リリエンフェルドほか『本当は間違っている心理学の話 - 50の俗説の正体を暴く』

サブリミナル効果でものを買わせることができる」とか「怒りは抱え込まず発散したほうがいい」といった通俗心理学に対してより巧みに操作された実験データによってそれらが不適切なことを明らかにしていく科学的な心理学の本、



とかいうと一部苦い顔する人がいるのはわかりすぎるほどわかってはいるんですが(現象学精神分析に通じてる人とか)

疑似科学の批判は片手間にはできない。それじたいを科学的に行おうとするならそれなりの手間暇がかかる。それをサボるなということだ。

という訳者解説の一節が素晴らしいので紹介。まあ、当たり前の話なんですけど。少なくとも本書は参照文献が53ページ分と膨大で「自分にとって都合の悪い説だし仲のいいトモダチがトンデモって言ってたから一緒になってDISる」といったお手軽なものではありません。

「数百年前に広く信じられていたことが今ウソだというなら現在科学的に妥当とされている説だって数百年後には笑い話になってるかもしれないじゃないか」と不満を述べる人もいるでしょう。19世紀にヨーロッパやアメリカで骨相学なんてのが信じられていたように。

科学の長所の一つは潔く間違えることができるという点で(注:自説を反証例から守るための後付けをアドホックな補助仮説といってこんなことばかりやってるとどんどん科学として減点されていく)、将来やっぱり本書による批判も間違ってましたということになる可能性はありますが、だからといってグレーゾーンを無視してすべての仮説は同等だという相対主義を私はとりません。そして本書は「神話」とされる見解に対してより良い見解を対置してくれるものなのです。

「それでも」といいたくなる人もいるかも知れません。

こころといっても先行する刺激の処理によって後続刺激の処理が促進または抑制される(プライミング効果)みたいな話と「こころのやまい」の話はレベルが違う話で「こころのやまい」は個別具体的に見ていかなければならないのではないか、とかよく聞く話ではあります(あるいは人々を知らず知らずのうちにある振る舞いへと導く「構造」や「言説」を分析すべし、など)。

違う目的を持って、違う対象を探求しているのに、ゆる〜く「心」と同じ日常語で呼んでいるからこそ、起こる必要の無いいざこざが起きているということも十分ありうると思います。

その辺の疑問についてもいちおう言及はされていますね(納得してもらえるかどうかはさておき)。
俗説に対して「少なくともここまでは認められる」と、フォローも忘れないあたり、なかなか穏健な本です。

たいへん堅実な尊敬できるお仕事ですが、私としましては、
普段はエビデンス・ベースドなアプローチに関心無いわりに(知的誠実さのあらわれというより)ゲーマーだからこそ「ゲーム脳」は張り切って叩くという心理・バイアスとか、通俗心理学にハマってしまう心理自体を探求の対象とした「通俗心理学の心理学」といったトピックに興味を惹かれてしまいますね(ゲーム脳の問題点については証拠の有無以前にそもそもの主張がおおざっぱすぎる点にあると思うが)。

社会心理学やメディア論といったさまざまな分野の共同作業による「通俗心理学の心理学」のほうは訳者の方がすでに研究を始めておりこの辺の話もいつか一般層のアクセスしやすい新書とかでまとめてくれるといいなあと思いました。

本当は間違っている心理学の話: 50の俗説の正体を暴く

本当は間違っている心理学の話: 50の俗説の正体を暴く