ローレンス・M・プリンチぺ『サイエンスパレット・科学革命』

ベリーショート更新シリーズ

定番の入門書として知られてる(らしい)OUPのvery short introductionシリーズがサイエンスパレットとして丸善から翻訳されておりますが、これはそんなかの「科学革命」を扱ったもの。

科学者と宗教家の闘争の時代というような19世紀に「発明」された古典的な科学革命観を支持している科学史家というのはもうほとんどいなくて、ニュートンなどの有名な自然哲学者の活動は基本的にキリスト教から推進力を得ていたとか、後期中世の知的発酵が14世紀の凶作やペストの中断のあとで再生したのだとか、そもそも科学革命などなかったよなんてカマす人も現れれば、単一の科学革命という考え方への回帰も起こったりして、ここ2,30年くらいの科学革命期の研究では新しい成果が積み重ねられているもよう。

本書は2011年に原書が出ただけあって、(訳者あとがきによれば)そんな最近の科学革命期の研究をよく反映しているようだ。ちなみに著者は科学革命期を「連続と変化の両方の時代でした」といういいとこ取りな書き方をしている。初期近代の錬金術(alchemy)と化学(chemistry)の未分化な探求を最近の科学史家はキミストリー(chymistry)と呼んで科学史的研究もすすんでるとかも全然しらんかったので勉強になった。コペルニクス的体系に消極的だった神学者が「観測に一致するような計算ができる便利な虚構」として採用した際の文章なんかは科学哲学の実在論争的な視点で読んでみるのも面白い。

ただ登場人物やトピックがガリレオ、ハーヴィ、ニュートンのような定番の有名人およびその活動ばかりでなく、ファン・ヘルモント、カッシーニ、リッチョーリなどややマイナーな名前も多く、最初の一冊!って感じで薦められるかというと微妙なところ。ある程度基本を押さえたらすすむべき一冊って感じでしょうか。

科学革命 (サイエンス・パレット)

科学革命 (サイエンス・パレット)